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東京地方裁判所 昭和49年(ワ)10355号 決定

原告 鶴見功

被告 渡辺芳道

被告補助参加申立人 国

訴訟代理人 斎藤健 田井幸男 ほか五名

主文

一  本件補助参加の申立を許可する。

二  異議によつて生じた訴訟費用は原告の負担とする。

理由

一  本件補助参加の申立の理由は次のとおりである。

原告は、本件訴訟において被告に対し、補助参加申立人(国・郵政省、以下申立人という。)の赤羽郵便局集配課副課長である被告が、昭和四八年一一月二四日同局集配課事務室の通常配達第二九区分台前において、同課で執務中の原告に体当たりして傷害を負わせたとして、その治療費等の損害賠償を請求している。

ところで、原告の主張する被告の不法行為とは、赤羽郵便局集配課職員である原告が、同局集配課事務室において執務中、その服務監督の職務を有する同課副課長の被告から、その監督上の注意に関連して傷害を負わされたというものである。そうすると、右行為はまさに、被告の職務執行中、その執行に関連してなされたものであるから、国家賠償法一条にいう「職務を行うについて」なされたものに該当する。

補助参加の要件である、訴訟の結果について利害関係を有するとは、少なくとも当該訴訟の判決でなされる訴訟物に関する判断について、法律上の利害関係を有することである。本件訴訟の訴訟物は、被告の不法行為を原因とする民法上の損害賠償請求権であるところ、申立人の国家賠償法一条による賠償責任は、公権力の行使に当たる公務員に民法上の不法行為責任があることを前提条件とする。すなわち、申立人の職員である被告の不法行為責任が肯定されることにより申立人の国家賠償責任が肯定されることになる。そして、本件訴訟において被告が敗訴すると、原告は申立人に対し、本件訴訟の訴訟物に関する判断の結果を根拠に、裁判上または裁判外において国家賠償法一条の賠償請求をすることができる。したがつて、申立人は本件訴訟の判決でなされる訴訟物に関する判断について法律上の利害関係を有する。

なお、申立人は、法律上被告敗訴の判決の効力を受けないが、このことは申立人が民訴法六四条にいわゆる訴訟の結果につき法律上の利害関係を有することを妨げない。

申立人は参加理由を疏明するための資料として、疏丙第一、第二号証を提出した。

二  原告の異議申立の理由は次のとおりである。

被告が原告に体当たりして傷害を負わせた行為は、その外見、内容ともに被告の職務とは何らの関連性を有しない行為であつて、国家賠償法一条にいう「職務を行うについて」に該当せず、単に職務時間中になされた私人としての行為にすぎない。したがつて、本件補助参加の申立はその前提を欠き、許されない。

そればかりではなく、補助参加は、当事者の一方の敗訴の判決が直接第三者に効力を及ぼし、あるいはその法的地位を決定することにより、第三者に法律上の不利益を及ぼす場合に認められる。しかるに、本件では、申立人は被告の敗訴によつて何ら法律上の不利益を蒙らない。すなわち、本件訴訟において、原告は被告に対し民法上の不法行為責任を主張しているのに対し、被告および申立人は国家賠償法一条の適用ありとして、その責任は申立人にあると主張している。したがつて、被告が敗訴しても、申立人は被告から求償を受ける関係にあるわけではない。また、被告と申立人の責任が択一的関係にあるとすれば、申立人は被告の敗訴により、むしろ同法一条に基づく損害賠償義務を免れることになり、申立人にとつて法律上望ましい結果になる。仮に被告と申立人の責任が重畳する場合があるとしても、本件訴訟の結果によつて、申立人の損害賠償義務の存否が決定されるものではない。そして、本件訴訟において被告が敗訴すれば同一の事実上または法律上の原因に基づいて申立人が同種の訴訟を提起される虞れがあるというだけでは、事実上の利害関係があるというにすぎないのである。

結局、郵政省の管理職員が、部下から訴えられて敗訴するということになれば、同省の労務政策を忠実に推進する中間管理者層の士気に悪影響を及ぼすという虞れが、本件補助参加申立の唯一の理由である。このような事実上の利害関係に基づく参加申立は却下されるべきである。

三  そこで考えるに、民訴法六四条にいう訴訟の結果につき利害関係を有するとは、当該訴訟の訴訟物である権利関係の存否についての判断に対し、法律上の利害関係を有する場合をいうものと解すべきである。そして、少なくとも訴訟物である権利関係の存否が、補助参加人の権利関係(法律上の地位)の存否を決定する論理的前提となる関係にあれば、参加人は当該訴訟の結果につき法律上の利害関係を有するものと解するのが相当である。

本件訴訟の訴訟物は被告の不法行為を原因とする民法上の損害賠償請求権であるところ、申立人の国家賠償法一条による賠償責任は、その職員である被告の不法行為が成立することを前提要件とすることは国家賠償法一条一項に照らして明らかである。すなわち、申立人の賠償責任は被告の不法行為が成立しなければ当然に否定される関係にあり、被告の不法行為の成否を論理的前提としている。したがつて、申立人は本件訴訟の結果につき法律上の利害関係を有するということができる。

原告が異議の理由として主張するところは、要するに、補助参加の要件である法律上の利害関係を、本件被告敗訴の判決の効力が申立人に及ぶ場合および右判決によつて申立人の原告または被告に対する法律上の義務が直接生ずる場合のみに限定しようとするものであつて、ただちに採用できない。また、申立人の参加の理由が、原告の主張するような単なる事実上の利害関係に基づくものでないことは、右に述べたところにより明らかである。

よつて、本件補助参加の申立は理由があるから、これを許可することとし、異議によつて生じた訴訟費用の負担につき民訴法九四条前段を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 滝川叡一 新村正人 後藤邦春)

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